湯河原惣湯 Books and Retreat玄関テラス

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人を呼び込み自然へ誘う
屋外リビング

官民連携でおこなった温泉場のまちづくり

平成28年、湯河原町と住民による話合いの中で、温泉場に観光客が立ち寄る居場所が求められ、温泉場区の地域戦略が検討されました。ここでは温泉場エリアのまちづくりのコンセプトを「古きを感じ、新しきを生み出す知の温泉場」とし、万葉公園再生のコンセプトを「湯河原温泉場の屋外リビング&ガーデン」と位置付けられました。
アール・アイ・エーはこれらをまとめた地域のまちづくりビークル(事業体)である株式会社癒し場へと協働して、平成29年から基本構想、基本計画を行いました。これらの業務では歴史調査や法規制の整理、事業化モデルの検討、温泉場全体の街なみ環境整備事業の設置など拠点整備からエリアマネジメントまで多岐にわたる内容調整を行いました。

温泉場区まちづくりスキーム図

以後4年間におよび、湯河原の地域資源がいかに活用できるかを考え続け、町やPFI事業者との協議や地域のまちづくり協議会、観光ボランティアとの対話を続けました。最終的には、「街なみ環境整備事業」「地方創生拠点整備交付金整備」「Park-PFI事業」の三つの制度を活用して公園エリア整備を行うことにしました。
アール・アイ・エーは町の設計者として県道沿いの玄関テラスや熊野神社への参道整備に関わり、Park-PFI事業者である湯河原惣研と調整しながら整備を行いました。万葉公園の各々の整備は協働で行われ、公共工事主体の開発でもなく、民間事業者主体の開発でもない、双方のバランスのとれたまさしく官民の連携ができた事業となったといえます。

万葉公園事業区域図

万葉公園の玄関口のリノベーション

敷地は、湯河原の湯治文化の中心として中世から近代まで湯治場として栄え、時代ごとの絵図にまちなみが記録されている温泉場区になります。万葉公園は温泉場区の玄関口に位置し、山々の緑と千歳川,藤木川のせせらぎに囲まれた美しい自然環境を有しています。
湯河原惣湯 Books and Retreat玄関テラスは老朽化した観光会館を改修して、広場と観光案内所を計画して、万葉公園の玄関口を再生するものです。具体的には、既存建物の昭和58年建設部分(新耐震)の4層の躯体を2層に減築し、昭和37年建設部分(旧耐震)はウッドデッキの広場を支持する基礎躯体として活用しました。

従前(上)と従後(下)の断面図

温泉場区の玄関口としての設え

既存ストック活用への試み

玄関テラスの設計は約70年に及ぶ建築物の歴史を紐解く作業から始まりました。昭和29年の堀口捨巳による万葉館および万葉亭の新築にはじまり、昭和37年の旧観光会館の新築、昭和53年の万葉橋の拡張、昭和58年の観光会館増築と建築履歴を調査しました。万葉公園にある建築群は増改築を重ねる内に、敷地とは切っても切れない形態になりつつあることがわかりました。
崖と既存建物が一体化した部分に手を加えないことを条件にできた計画案は現況の複雑な構成の建物と異なりシンプルなものとなりました。平面の3分の1が地下に埋もれており,自然と開口部は藤木川と千歳川に向けられました。特に,藤木川に向けての開口部は地域の湯かけまつりやイベントの時に、一体的に利用できるように全面開放できる計画としました。屋根と外壁は、川と緑に囲まれた厳しい自然環境に耐えられる亜鉛めっきステンレスとしました。板金のはぜ葺きが織りなす陰影のある外観は周辺の山々を映しながら、見る方向によってさまざまな表情をみせる仕上がりになりました。

鳥瞰写真

内外ともに一体感のあるシンプルな空間構成

この建物は2層でわずか600m2の空間しかないですが、観光案内所、飲食店舗、観光客用のトイレ、コワーキングスペース、観光協会・旅館組合・公園指定管理者の3団体の事務所と、面積に対して多くの機能が求められました。関係者との対話から、1階のコンシェルジュカウンターによる集約した接客方式を採用し、各機能を損なわないコンパクトな用途構成をめざしました。バックヤード以外はワンフロア構成とし、間仕切壁はスラブまで達しない高さで区画して、天井スラブが連続してみえることで、利用者に広く感じられる空間としました。家具は神奈川県産材の圧縮スギ材を採用して製作し、利用者動線を誘導するカウンターなども製作しました。

矩計図

1階・2階の県産木材の内観写真

新たに加えた鉄骨の大屋根は、町の温泉場地区景観計画に沿った表現として、軒のある傾斜屋根とし、既存に合わせて平面を曲面とした。機能的には雨除けと小屋裏の設備スペースの確保を目的とし、日射を抑制するために深い軒下空間を計画し、内部空間からは万葉公園の美しい風景が軒に仕切られて望めるようにしました。

名称 湯河原惣湯 Books and Retreat玄関テラス
所在地 神奈川県足柄下郡湯河原町
主要用途 観光案内所、飲食店、事務所
発注者 湯河原町
竣工年 2021年