安来市総合文化ホール「アルテピア」

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コンクリートの表情が奏でる「音」「建築」デザイン

交流と文化の拠点づくりとしての総合文化ホール

昭和41年に建設された安来市旧市民会館は築後50年近く経過し、老朽化、耐震性不足、バリアフリー対応不備などの問題を抱えていました。平成16年の「安来市」「広瀬町」「伯太町」が合併、新たな「安来市」のまちづくりの一翼として平成25年に市民会館の建替えが決定、白鳥が飛来する緑豊かな田園地帯の中に新しい総合文化ホールが計画されました。
総合文化ホールは「集う」「観る・聴く」「演じる」 を基本理念に据え、⽂化芸術活動の拠点、また活動を通じた新たなコミュニケーションを育むまちづくり拠点施設として設計を行い、平成29年9⽉に「安来総合⽂化ホール アルテピア」は開館しました。

豊かな自然の中に建つ新たな市のシンボル

 

コンクリートの表情が奏でる「音」「建築」デザイン

設計期間は工事費高騰の時期とも重なり、全国的にも類似施設の入札不調が多く、常にコストを意識した設計となりました。プロポーザル時点からコンクリートを多用した提案をしていましたが、最終的には7種類の異なる表情をもったコンクリート打ち放し仕上げを用いました。これらは建物デザインだけでなく、コンクリートの性能を活かした遮音計画、そしてホールの音響計画にまで及びました。

7種類のコンクリート打ち放し仕上げ

田園風景が広がる立地の建物外観は、川のせせらぎや竹林をモチーフとした、縦方向に凹凸をつけたストライプ状のデザインとしました。低層部に安来市産の杉の型枠を使用、また付近に多く見られる石州瓦の使用により親しみのある外観としています。

 

市民が日常的に活動する空間

エントランスからつづく「市民ロビー」は、天井から自然光が入る広く明るい吹抜け空間です。回遊できる展示ギャラリーとして、市民が気軽に文化芸術にふれる空間としています。また市民活動室として、防音防振機能を持つ広い「練習室」、可動式展示パネルを装備した「展示室」、展示室と繋ぐことができる「会議室」を設置しました。

カフェを併設する明るいエントランスロビー

(左)練習室、  (右)展示室 兼 会議室

 

臨場感が高い「鑑賞の場」大ホール

「大ホール」は客席と舞台との距離が近く、クラシック音楽・演劇鑑賞でも臨場感が高い空間です。内装は、安来市産ひのきの積木ブロックと同形状のコンクリートの凹凸デザインで重厚感と非日常性が味わえる空間を意識しました。高い天井と適正な形状・素材に加え、入念な音響シミュレーションを繰り返すことで、響きのよい豊かな音場を創出しています。

音響反射板を設置した音楽形式の大ホール

「大ホール」のホワイエは、中海をイメージした落ち着いた空間で、窓からは遠く大山の姿を一望できる自然に包まれた空間です。ホール側の壁面は、ホールの外部と内部のボリュームが連続したようなデザインとしています。

大山が一望できる「大ホール」のホワイエ

 

市民の「ハレの場」小ホール

「小ホール」は、移動観覧席を持つ平土間空間として、鑑賞空間、会議、展示会や軽スポーツまで幅広く市民が気軽に利用できる多目的な空間としています。コンクリート打ち放し天井の高さを十分に確保し、シューボックス型ホールとして、クラシック音楽の響きが良い音場空間としています。

(左)客席形式、  (右)平土間形式

 

設計者と市民の協働でデザインされた「記憶の継承」

生まれ変わる市民会館の記憶の継承を試み、小ホールのホワイエ壁面に旧市民会館のタイルを再利用し、地元の高校生のデザインで炎をモチーフとしたモニュメントとして生まれ変わりました。また、エントランス壁面の一部にも旧市民会館の内装材であった現在では貴重な荒島石を再利用しています。

旧市民会館のタイルを利用した壁面モニュメント

環境的な取り組みとしては、市内初のバイオマスエネルギー事業として、市内産の木質チップを燃料とした木質バイオマス蒸気ボイラーを導入し環境負荷低減に努めています。
これからのアルテピアが文化・芸術活動の拠点として日々市民が集い、市民にとって活動が日常になる場所として賑わうことを期待しています。

地平線に沈む夕日と呼応する東面の夕景

 

計画概要

発注者 島根県安来市
延床面積 8,000㎡
主要用途 大ホール:1008席、小ホール300席
竣工年 2017年

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