ホテル本能寺

  • ホテル
  • 近畿
  • 1990年代

歴史の重みと現代の街並みとの調和

京都の目抜き通りである、御池通と河原町通りの交差点に立つ、ホテルの建替え計画です。
法華宗の大本山である本能寺の宿坊機能と、修学旅行で京都に来られる学生達の学びの場、という2つの機能を併せ持った宿泊施設として、ホテル本能寺はこの場所で60年にわたり営業されてきたが、施設の老朽化により建替えられることとなりました。
建替えにあたっては、学生達をお迎えして良い思い出を残していただこう、という建築主の創業当初の思いを引き継ぎつつ、すべてのお客様に十分満足していただける宿泊施設を目指して設計を行いました。
本能寺は1415年建立、1592年よりこの地に移転してきた古刹であり、京都のこの地に根差してきた歴史と文化があります。また、京都市役所の目の前、幅員50mの大通りに面する建築ということもあり、歴史の重みと、現代の街並みとの調和が求められました。 

繊細でありつつ重厚な、時代を生き抜くデザイン

御池通りに面するファサードは、9本の大きな列柱壁とし、下見板の化粧型枠を用いた黒いコンクリート打放しによる、重厚な表現としました。低層部はシャープなデザインの庇とガラス壁により、上部の重厚さを際立たせている。頂部は亜鉛メッキ型鋼による勾配屋根と、透明なガラスの奥に弧を描く壁を忍ばせることで、列柱壁の上に円弧が浮かぶ象徴的な形態としました。
上下で水平ラインを強調するコンクリートの庇には、PC手摺によって重厚な欄干を施し、近代建築を思わせる力強いデザインを用いました。
目まぐるしく移り変わる現代の町並みに対して、コンクリートの武骨な表現によって抗い、繊細でありつつ重厚な、時代を生き抜くデザインを目指しています。
また、建物の南には府の文化財である本能寺の本堂が近接しており、境内からの視線に配慮するとともに、本堂へのお勤めの参道となるスロープを配置し、裏側のデザインとならない様に工夫しました。

南側スロープ 白い門をくぐり本堂へと向かう参道となる

多様な運用に対応する平面計画

ホテルは貸し切りでの利用が多い修学旅行のニーズに対応するため、多様な形式での貸し切り利用が可能な計画としました。2つのエントランスと大きなロビー、地下と2階にある宴会場、そして最上階には4つの浴場を配置しています。中間階に並ぶ客室は伝統的な続き和室を採用します。

配置図兼1階平面図

基準階平面図

断面図

西エントランス内観 エレベーターシャフト越しに本能寺境内が見える

東西2つのエントランス

ピュアなファサードを実現するための意匠・構造・設備の統合

 構造計画上、大地震時の構造体のせん断破壊を防止するため、直後に控える柱・梁と外壁間に構造スリットを設ける必要がありました。垂直スリットは外壁内面に設け、外からは見えないように配慮しました。水平スリットは、下見板の凹凸を利用し、視認しずらい位置に設け、色彩も外壁と合わせました。
 設備計画上、給排気口が必要になりますが、コの字型をした外壁形状を活かして、窪んだ位置にベントキャップを配置することによって、視認しずらい位置に設けるとともに、下見板の凹凸を利用し、外壁内に埋め込みました。ベントキャップの形状は角型、色彩は外壁合わせました。

北面外装 手前は東エントランスの門扉

 

既存地下外壁を利用した経済的で周辺にやさしい地下躯体計画

 計画敷地では、地下を有する敷地一杯に既存建物が建設されていました。地下鉄に近接していることや、周辺の環境に配慮して既設建物の地下外壁を山留利用することとした。
基礎構造を重量のあるマットスラブ形式とし、既存地下外壁の中に新築躯体が納まるように新築躯体を設定しました。地下部分は既存建物の外壁内に設定、上部躯体は1~3階床までを斜め柱とし、建築範囲を最大化しております。
本設計は、施工者と共同企業体を組むデザインビルド方式で取り組んでおり、設計期間中に施工計画の検討の上、合理的な地下躯体計画を実現しました。

地下躯体の考え方

本能寺の宿坊にふさわしい内装

 内装は、「和」を感じさせるものとし、本能寺から連想される織田信長をはじめとする安土桃山の強さと華やかさを意識したデザインとしています。
宿泊される方々の思い出と共に、建築が京都の町並みとなってゆく事を願っています。

2階ロビー 向かい側に京都市役所が見える。天井は本能寺本堂と合わせた格子天井としている

9階ラウンジ 質感ある円弧状の左官壁が夜景に浮かぶ

客室 特別和洋室「紫雲」

客室 和室

計画概要

発注者 株式会社本能寺文化会館
延床面積 7,710㎡
主要用途 旅館 客室数74室
竣工年 2019年

 

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