奈良公園バスターミナル

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古都奈良との調和をめざした、立体的な庭

奈良公園の玄関口としてのバスターミナル

奈良公園は国内有数の歴史ある公園で、公園自体が国の文化財である「名勝」に指定されています。東大寺や興福寺、春日大社といった古刹や、若草山や三笠山、猿沢池といった自然までを内包した、総面積は実に660haにも及ぶ大きな公園です。
奈良公園ではかねてより、市街地を超えて公園内まで溢れる観光バスの渋滞に悩まされてきました。以前は観光シーズンに発生する現象でしたが、近年ではインバウンド需要の高まりによる観光客の増加を受け常態化していました。渋滞は園内の景観にまで影響を与える状態で、解消しなければならない喫緊の課題でした。
一方、これだけ大きな公園であるにもかかわらず、園内や奈良県全体の観光情報が効率よく得られる場所に乏しいことも課題でした。また、情報を得ても園地が広すぎて、様々な場所を回れない事も悩みの種となっていました。
「奈良公園バスターミナル」はこうした状況を解消する端緒となるべく計画されました。

複合した機能をつなぐ立体的な庭

建築に必要とされた機能は、観光バスを一時的に停車する為のバスターミナルと、市内の駐車場を管理し誘導する交通管理センター、観光客や地域住民の利用する商業施設、奈良県の魅力を発信する為の展示室と300人の小ホールです。バスターミナルという枠を超えて、観光客にとどまらず、地域住民の交流と奈良県の情報発信の場となる事が必要となりました。

この複数の機能をつなぐための建築として我々が出した答えは、「立体的な庭」をつくる事でした。建物の中央には人々とバスが蠢く現代的な景色があり、周囲には奈良公園の歴史的な風景が広がります。これらを様々な視点場から眺めつつ、歴史に思いを馳せる事の出来る空間、いわば古代と現代を繋ぐ回遊式庭園の様な空間を創り出したいと考えました。

奈良公園には大きな樹々が広がっていますが、丁度樹木の梢の上あたりに目線が来る高さの視点場はありません。そこで頂部には水平に広がる見晴らしの良い屋上庭園を設けました。屋上庭園からは、奈良市街や興福寺の五重塔、春日の山々等が一望できて、上から見下ろすのとは一味違った、風景に溶け込むような一体感のある眺めを創り出しています。

公園の様な建築とするべく、動線は出来るだけ屋外化しました。周囲に素晴らしい場所があるのだから、出来るだけそれを感じる事のできる場所とするべきです。色々な用途を水平に張り出した屋外デッキをめぐらすことでつなぎ、様々な視点から奈良公園を感じられる空間とする事で、観光客のみならず、日頃から市民が利用できる「立体的な庭」を目指しました。

古都奈良との調和をめざして

建築のある場所は、古くは平城京の東端、二条大路と七坊大路とが交わる場所です。東に通る七坊大路は奈良と京都とをつなぐ歴史ある道で、京街道(或いは奈良街道)と呼ばれています周辺は、古くは南都六景にも描かれた松並木も残る名所でした。南北に延びる京街道沿いには、「ならまち」と呼ばれる街道沿いの景色が連なっています。京街道の東側には吉城園と依水園という古刹があり、その向こうには東大寺の境内が広がります。
敷地の南側に走る道は平城京に比べれば新しい道で、市内を東西に結ぶ交通の動脈です。その南側には興福寺の境内が広がっていて、建築敷地も半分は興福寺の境内だった記録が残っています。敷地西側には片山光生設計による奈良県庁を始め、美術館やホールといった文化施設が連なっています。

敷地の歴史を考えるうえで特に重要なのは、東側の京街道に面した街並みに呼応する事でした。興福寺の境内であった印である既存の築地塀を保存しつつ、長大なファサードを縦に分節する事で、街並みを出来るだけ壊さない様にしつらえました。大きな庇のラインと、小さな庇によって水平に伸びゆく連続感は残しつつ、ガラスのボリュームを飛び出させることでリズム感のあるデザインとしています。

「和」の構造表現を施したフィーレンデールトラス橋

建物配置は敷地外への景観的な影響を少なくする為、停車場を敷地の中央に配置し、周囲を建物で囲む様な計画としました。そのうえで、東西2つのボリュームをつなぐブリッジを設けまています。ターミナル内を無柱空間とするため、ブリッジはフィーレンデールトラス構造を採用し、46mの無柱空間を実現しました。フィーレンデールを採用する事により、直交して重なる構造材によって、和の空間、特に力強い“奈良的な空間“を創り出しています。

ブリッジの設計と施工には苦労しました。上下に延びる1mの厚さの庇に、ウッドデッキと大きな梁と設備とを納めつつ、鳥居型の鉄骨を入れ込んでいます。フィーレンデールの柱部材は、構造的には全てを同じ外形としながら、各板厚を応力に連動して変えてゆく事で、均質なデザインとする事に配慮しています。施工時は出来るだけ現場での溶接を少なくするため、ユニットに分けた上で建方を行い、3次元計測システムによる複数個所の同時リアルタイム計測によって慎重なレベル管理を行い、スパン46mにおいてレベル差6mmの精度を達成しました。

名称 奈良公園バスターミナル
所在地 奈良市
延床面積 5,942㎡
竣工 2018年12月