山口市産業交流拠点施設【KDDI維新ホール】

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まちが育つ「時間」と「つながり」をデザインする

にぎわいの記憶の地に新たなまちの核をつくる

山口市小郡地区は、古くは山陽道の宿場町として栄え、また鉄道の町として発展し、昼夜を問わず多様なにぎわいを見せていました。しかし車社会への移行などによる環境の変化により、昭和から平成へと移行するころにはにぎわいは姿を消して行きました。計画地は旧国鉄所有の広大な土地でしたが、昭和59年ごろから長期間土地利用がなされない状態となっていました。

計画地には昭和59年頃まで貨物の引き込み線があり、鉄道職員の共済の場として、国鉄職員のアパートや生活物資の販売所などがあった。

平成27年7月、山口市は「新山口駅北地区重点エリア拠点施設整備実施計画」を策定、整備コンセプトを「出会う つながる 生まれる 広がる」として、計画地に、「産業創造」「にぎわい創造」「生活文化創造」の3つの視点に立ったまちの核づくり行うことを決定し、山口市産業交流拠点施設を整備することになりました。平成28年11月、公募型プロポーザル方式にて「拠点施設整備事業」を実施する事業者グループの募集選定を行い、アール・アイ・エーは、「森ビル都市企画グループ」の構成員(設計業務・工事監理業務の幹事企業)として選定されました。

「出会い」と「交流」を促す施設機能配置と公共空間計画

プロポーザルにおいて要求された施設は、「多目的ホール」、「企業創造支援施設」「コワーキングスペース」「公的機関オフィス」「会議室」「音楽スタジオ」「ダンススタジオ」等で、これらと連携する形で民間提案が求められ、フィットネスなどの「健康増進機能」、交流と次世代リーダー育成目的のシェアハウスである「アカデミーハウス」や住宅機能の付加を提案しました。
本施設整備に先立ち、新山口駅では橋上駅舎化と印象的な垂直庭園がある「南北自由通路」の整備、また北口駅前広場「0番線」の整備により、緑豊かな公共空間環境が創出されました。
これらの整備状況や近隣状況より、本施設は高層化せず面的に広げ、施設内外に広場や通路などの公共空間ネットワークを構築し、地盤レベルと橋上レベルで駅とまちを繋ぐデザインを行い、この動線上に各機能が顔出しするよう配置とすることを考えました。

整備コンセプト「出会う つながる 生まれる 広がる」を実現する施設整備計画概念図
要求施設と民間提案施設が広場や通路空間などの公共空間によりつながりネットワークを構成する。
コンセプトは施設を越え、まちに広がり新たなネットワークが構築されにぎわいが創出される。

駅前とまち双方に開いたひろばを置く

整備計画概念図に基づき、駅前広場側には「出会いのひろば」、まち側には「地域交流ひろば」を設けました。これらの広場にはそれぞれ異なった表情を与えています。広場は日常的にまちのにぎわいの核になることをイメージし、形状、広さ、設備装備、車両乗り入れなどの検討を行いました。

にぎわいづくりの公共空間としての役割があるまちに開いた広場
屋台出店、ヨガ教室などの施設の各種イベントや活動が行われ、市民と文化、活動が出会う。

2つ広場を繋ぐ公共空間「自由通路」

駅側から施設を通り抜けまちへとつなぐ「自由通路」をつくりました。CAFÉやチャレンジショップ、コワーキングスペースなどが顔出しするこの空間には、トップライトから日差しが入り壁面に陰影を落とします。陰影は形を変え、時の移ろいが感じられる空間となりました。
単なる通路ではなく、イベントに対応できる広く明るい空間としてデザインを行いました。

「移ろう光」「家具」「活動」が空間を彩る。

つながる・回遊する・緑豊かな市民の居場所となる屋上公共空間

屋上に駅高架通路レベルでつながる眺めの良いデッキを整備しました。ホールボリュームを取り囲み回遊させながら、通り抜けが出来、施設内にもつながる芝生広場やベンチがある公園・遊歩道空間です。
夜間はライトアップされた壁面が空間を彩ります。

ジョギングや散歩をする方がいる。ホールイベント帰りに立ち寄り余韻に浸りながらデッキを回遊し景色を楽しむ人たちがいる。屋上回遊空間には時間によって異なるシーンがあります。

新山口駅0番線と街並みをつなげる

分節された白い壁面とデッキのつながりでつくられる街並み。

道路側ファサードは先行整備された「0番線」と調和させました。デッキの長さは約400m、地上レベルとデッキレベルのラインが新山口に新しい風景をつくり出しました。施設ファサードは異なりますがデッキと白い壁面を共有し、施設の個性を出しながらも街並みと調和させました。

シンボルとなるうつろうファサードデザイン

大きなボリュームであるホール壁面は遠くからも視認されます。単調な表情とせず約4m×横3.6mの凹凸面で構成、シンボリックな表情を与えました。ホール周囲に機能を配置し、分節したファサード構成としています。

朝はシンプルに、昼からは陰影が出て市松模様に、そして夜はライトアップ。時間の経過で変化するホール凹凸壁。

様々な要求に呼応するメインホール

最大2000席の収容能力があるホールは、コンベンション利用からロックコンサート、また演劇鑑賞や映画鑑賞など多様な要求に答えます。平土間から1200席、1500席、最大2000席規模まで可変するホールとして整備しました。

迫と移動観覧席により舞台規模、客席規模が変わる。また1,000㎡の平土間にもなる大規模空間。

山口の将来を担う人材育成の場、ACADEMY HOUSE

学生と若い社会人が共同生活を営みながら、他者・地域との共⽣や、専⾨家がバックアップする課題解決型学習やキャリア開発プログラムを通して、哲学的思考や多様性の尊重など、さまざまなスキルや経験を⼊居者が積む場として整備しました。⾃⼰肯定感・⾃⼰効⼒感を⾼め、⼈間性を育み、⼈⽣の充実につなげることで、次世代のリーダーとなる⼈材を輩出することを⽬的としています。

共同生活を営む若い人を温かく包み込む木フレームデザイン。空間であるみんなの活動室兼LDK。

段階的なまちの成熟により新しいにぎわいを創出する

山口市産業交流施設は、駅周辺だけでなく小郡都市核全体の土地利用の活性化を促し、既成市街地の再生へとつなげていくことが期待された整備です。
事業実施者の協働者として、地域のコミュニティとしての交流やビジネスとしての核となる機能と各事業の立ち上げの支援、そして時間をかけて地域に根差していく仕組みを提案し施設づくりを考えました。
時間経過とともに、施設や駅周辺に業務施設や商業施設が集まり、面的にまちが広がり、相互の関係性から新たな需要が生まれて行くと考えます。まちが徐々に成熟していくことをイメージし、山口市産業交流拠点施設は、新たなにぎわいを生む核施設として、まちづくりのモデルとなると考えています。

所在 山口市
延床面積 15,300㎡
竣工 2021年

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