奈良市斎苑 旅立ちの杜

  • 斎苑、火葬場
  • 近畿
  • 2020年代

杜の中の美術館のような斎苑

116年ぶりの建て替え計画

 旧火葬場は、大正5年開設から100年以上が経過し、老朽化対策、火葬炉改修等数度の改修を経て運用されてきましたが、市民ニーズや火葬件数の増加など社会状況の変化や環境面での負荷軽減等を考慮すると旧タイプの施設では機能的に限界を迎えていました。平成29年大和青垣国定公園内の現在の敷地に都市計画決定され、新斎苑が計画されました。

会葬者を迎え入れる競り上がる屋根と景色を写し込むガラス面

 大和青垣国定公園内に位置するという場所性を考慮しながら、会葬者を迎え入れる外観とするため、寄棟屋根を変形し、アプローチに対し競り上がるようにデザインしました。屋根下の大きなガラス面は周囲の景色を写し込む鏡面フィルム貼とし、周辺環境に溶け込むように計画しています。

変形した屋根形状

周辺を写し込むガラス

 

十分な広さの車寄せ

 2組同時到着しても十分な広さを確保した車寄せにより、スムーズに霊柩車から建物内へ移動が可能な計画としました。

会葬者の心情に配慮した2ブロック2ウェイの平面計画

 12炉を抱える大型火葬場を効率よく合理的に計画するため、6炉1ブロックを左右対称に配置した2ブロック2ウェイの平面計画としました。こうすることで、会葬者が2組同時到着しても、動線を交錯させることなくお見送りができ、管理動線も大幅に短縮されます。
また火葬炉の修繕や入替時も片側ずつ行うことで、業務を止めることなく運営が可能です。

2ブロック2ウエイの平面計画

 

美術館のようなシークエンシャルな壁・建具

 会葬者の心情に配慮する上で、スムーズな葬送の動線計画が重要でした。コンセプトである「森の中の美術館」のように、会葬者を誘導する意匠壁・建具を配置することで、シークエンシャルな空間とし、わかりやすい施設を目指しました。

エントランスホールへ通じる特殊塗装の扉

エントランスには絵画と石張りの壁、回廊へ通じる建具

木立を表現したウォータジェットピーリング仕上げの壁

回廊へ誘導する意匠壁

告別室を明示する液晶と金属パネル

告別室・収骨室

会葬者同士の動線を交差させない工夫

 告別室で告別と収骨を行う関係上、会葬者同士の動線の交錯を起こさないことが大きな課題でした。葬送が込み合った際は告別室の可動間仕切りを閉じ、告別と収骨の同時進行が可能な計画とし、回廊に間仕切り壁を設け、告別室へ行く動線と告別室から出る動線の分離を行っています。

万葉植物を取り込んだ光庭

奈良らしさを表現するため、回廊に面する4つの光庭は万葉集に歌われた万葉植物を中心に植栽を行いました。光庭は全て異なるデザインとし、前向きな花言葉のものや、季節によって花や実をつけるものを採用し、自然の移ろいを感じられる計画としています。

厳粛な空間を表現する告別室のデザイン

 故人との最後のお別れの場である告別室は、華美な装飾をせず、石・タイル・コンクリートの限定した素材を使用し、無駄のない厳粛な空間となるようデザインしました。祭壇の背景には奈良の原風景である『池』と『山』を表現した枯山水の光庭を配置し、借景としています。

会葬者を優しく包み込む待合室

 火葬を待っている間の待合室は、会葬者の方にとって心を落ち着けたり、故人を偲ぶ空間です。1階の厳粛な空間とは対照的に木質系の暖かい素材を使用し、大和青垣を取り込む大きな開口部を設け、開放的で落ち着いた空間を目指しました。

市民に親しまれる斎苑を目指して

 100年ぶりに火葬場がリニューアルされ、多くの市民の方に快適に利用していただき、今までの暗くて怖い斎苑のイメージを払拭し、新しい斎苑が広く親しまれ、地元に受け入れられていくことを希望します。

奈良盆地をひっそりと見晴らす市民の斎苑

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