CHALLENGE

#リノベーション/コンバージョン

美馬市地域交流センター ミライズ
地域の歴史を紡ぎ、新たな役割を担う交流拠点へ

地域の期待を背負った大規模コンバージョン

美馬市中心部の観光地「うだつの町並み」・「オデオン座」のすぐ近くに位置する「パルシー」は、1987年に開業したスーパーマーケットと専門店からなるショッピングセンターで、長く地域に親しまれ賑わいを見せていました。しかし、時代の変遷に伴い近年では専門店エリアが全て閉店し、最終的にスーパーマーケットだけが営業を続け、建物の半分以上が使われていない状態にあり、建物としての存続が危ぶまれる状況でした。

2010年代より専門店のテナントが続々と退店し、スーパーマーケットだけが残り営業していた。

 そこで美馬市が施設の有効活用のために建物を買い取り、市内公共施設の整備計画にあわせ地域交流センターに改修し、スーパーマーケットの1階食品売場は改装して営業を続けるという官民が一体となったプロジェクト「ミライズ」が始動しました。
 「ミライズ」にはスーパーマーケットに加えて、500席の美馬市民ホール、うだつの町並みから移転した美馬市立図書館、脇町エリアの市民サービス機能、公民館機能、保育所、子育て支援センター、交番など様々な施設が集まっています。これまで美馬市内には専用ホールが無く、成人式や音楽イベントも市内の体育館を使わざるを得ない状況で、コンバージョンの計画が上がった際は自然と市内初となるホールを要望する声が挙げられました。

変更前後断面構成

 全体の改修計画としては、地下1階・地上2階建て、延床面積 約23,000㎡(改修前)に対し、1・2階はスーパーマーケットを除く約3/4の範囲をコンバージョンしています。また外観はうだつの町並みと調和の取れた白壁と瓦屋根により構成されており、今回の改修では地元に長く愛されてきた外観は一部の改修を除きほとんど手を加えず保存しています。

うだつの町並み側から見た建物全体の外観

 

空間を仕切る活動の「ハコ」と「カベ」

既存建物の内部は8mスパンでRC柱が建ち並ぶ商業のための空間で、うだつの町並みや周辺の街のスケールとは掛け離れたものでした。そこで、市民が活動する場所を「ハコ」、うだつの壁を模して様々な機能を与えた「カベ」を2つの構成要素として、各用途に合わせて組み立てることで柱の存在を消していく平面計画を行いました。単純に諸室を並べるのではなく、既存の空間に大小の「ハコ」(諸室)をランダムに配置し、「ハコ」以外の余白をフリースペースとして様々な居場所を計画しました。また、建物内は行き止まりがなく、様々な活動と触れ合う機会を誘発する仕掛けを施しています。

コンセプトダイアグラム

「ハコ」「カベ」をコンセプトに、改修エリアには既存柱が一本も独立して現れない空間を構成している。

 要求された各諸室の面積に対して既存建物の床面積が比較的余裕があったため、各室の間を抜ける通路はゆとりのある幅員をもった路地空間とし、各所に来訪者が自由に使えるフリースペースの充実化を図っています。貸室を利用した後の休憩や、学生の勉強場所、
ホール利用時はロビースペースとして機能します。

2F運動のハコ

2Fフリースペース
貸室の「ハコ」の余白スペースにも多くの人が集まる。

 美馬市立図書館はグリッド状に並んだ既存柱をカベ内包し、空間を分節しています。「カベ」の厚みを利用して、閲覧・検索コーナーや書架など様々な機能を持たせており、利用者は本を読むのにお気に入りの場所を選べます。本棚は既存建物の設計積載荷重を超えないよう書架を低層に揃えて計画しています。

図書館は本棚を低層に抑えたことで空間を仕切る「カベ」がより際立っている。

図書館の南側には吉野川を一望できるテラスを新設し、ゆっくり読書をできるスペースとして季節を問わず人気の場所となっています。唯一今回の改修工事で壁面の一部を撤去し、半屋外空間を形成しています。

吉野川テラスから望む景色。吉野川の奥には脇町潜水橋が架かる。

リニューアルしたスーパーマーケットと地域交流センター側とは一切隔たりがなく、自由に行き来が出来ます。日常的に利用するスーパーマーケットの利用者がついでに図書館を利用したり、ふと他のハコの活動を見ることで交流がどんどん増えていきます。

ミライズの中で一体となったスーパーマーケット。ここでは館内を買い物カートで移動することも日常である。

 

既存のアトリウム空間を音楽ホールに

本プロジェクトの中でも特筆すべき事項は、ショッピングモールの吹抜け空間を利用して、500席の本格的な音楽ホールにするという前例の無いコンバージョンです。設計当初は客席が2階から1階へ降り、舞台を1階に設ける検討をしましたが、ホールとしての気積が十分に取れないことが最大の課題でした。そこで1階セントラルコートの床を減築して地下駐車場の一部をホール空間に転用し、舞台・楽屋を地下1階まで降ろすことを提案しました。幸いにも元の商業施設の地下1階には十分な台数の地下駐車場があり、地下駐車場の一部もホールへコンバージョンする範囲に加えることができました。結果として新築のホールに劣らない残響時間と音の響きを得ることができました。

変更前後断面図

内装はうだつの町並みに見られる建築要素を抽出し、白壁や墨色の壁に、地元の名産である藍染の色とした客席をアクセントとしました。客席下部の側壁は、2種類の下見板貼りとして細かな凹凸を付けることで高音域の拡散を意図しています。

ホール改修前

ホール全景改修後
改修前の1階床がある状態から床部分を減築し、ホールに必要な高さと空間を確保している。

ホールを挟みスーパーマーケットの反対側に既存の吹抜けとトップライトを利用したホワイエを計画しました。開演前のロビースペースは1階のフリースペース全てを使う形で十分な広さを確保しています。またホールの外壁は徳島県産材の木材を貼り温かみのあるデザインとすると共に、様々な展示が可能な設えとし、市民の方々の活動の発表の場として機能します。

自然光が降り注ぐ明るいホワイエ。ホールの利用時以外はフリースペースとして利用でき、イベントの展示も行われる。

 

集まることの相乗効果

様々な機能が一つに集約されたことで、ホールの公演後に図書館やスーパーに立ち寄るといった今までにない人の流れが生まれています。図書館の利用者数は移転前よりも大幅に増えるなど、館内をまたいで利用する風景が日常的に広がり、市民の拠り所となる建物として、更なる賑わいと交流が生まれることを期待しています。

屋上を一部改修し、保育所の園庭にもなっている。

ホールの公演終了後には人々が他のエリアに自然と立ち寄る様子が見られる。

計画概要

発注者 徳島県美馬市
延床面積 約23,000㎡(改修面積 約10,000㎡)
主要用途 ホール・図書館
竣工年 2018年

事業スケジュール

1987年 ショッピングコアパルシー開業(脇町ショッピングセンター協同組合とキョーエイの区分所有)
2014年11月 キョーエイ脇町店をのぞきショッピングセンター全面閉店
2014年12月 美馬市が土地建物の買取、地域交流センターの整備計画に着手
2015年6月 基本・実施設計
2016年11月 改修工事着工
2017年8月 キョーエイ脇町店一時休業
2018年2月 改修工事竣工
2018年4月 キョーエイ脇町ミライズ店新装開店
2018年5月 美馬市地域交流センターミライズ全面開業

 

 

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